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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)65号 判決

原告

阿野勝

右訴訟代理人

中島純一

吉原省三

被告

特許庁長官

三宅幸夫

右指定代理人

渡辺清秀

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四七年三月二二日、同庁昭和四六年審判第四、八一七号事件についてした決定は、取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四三年九月八日、名称を「油としよう油とで味付された米菓の製造法」とする発明について、同一の願書の特許請求の範囲に二個の発明を記載して、特許出願をしたところ、昭和四六年五月六日拒絶査定を受けたので、同年六月二八日審判の請求をし、同年審判第四、八一七号事件として審理されたが、昭和四七年三月二二日、「本件審判の請求書は、却下する。」との決定があり、その謄本は、同年五月一一日、原告に送達された。

二  本件決定の理由の要旨

審判請求人(原告)は、本件審判請求にあたり、正規の手数料を納付せず、審判長が期間を指定して不足手数料の納付を命じたにかかわらず、指定期間内に納付しなかつたから、本件審判請求書は、特許法第一三三条第二項の規定により却下すべきものである。〈後略〉

理由

(争いのない事実)

一本件に関する特許庁における手続の経緯(出願日の点を除く。)および本件決定の理由の要旨が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件決定を取り消すべき事由の有無について)

二原告は、本件決定は、その主張の点において、違法である旨主張するが、その主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち、

(一)  原告が、本件審判請求書について納付すべき手数料の不足分三、〇〇〇円の納付を命じた審判長の補正命令を、昭和四六年一〇月四日に受領したことは、当事者間に争いがないところ、原告は、同年同月六日、右同額の収入印紙を貼付した手続補正書を、普通郵便で、特許庁あてに郵送し補正をした旨主張するが、本件に顕われた全証拠によるも、この事実を認めるに足りないから、原告の右主張は採用することができない。

(二)  原告は、本件決定の確定前である昭和四七年五月二五日付手続補正書により、前記不足手数料を納付したから、本件審判請求書の瑕疵は治癒された旨主張する。しかしながら、審判請求の手数料についての補正は、補正期間内または補正期間経過後においても遅くとも審判請求書の却下決定前に限りできるものと解すべきであるところ、前記手続の補正が本件決定後にされたものであることは、原告の主張自体に徴し明らかなところであるから、これにより本件審判請求書の瑕疵が治癒されたものということはできない。原告は、手数料の補正は、却下決定の確定するまでは有効にできるものであると主張し、その根拠として民事訴訟法第二二八条の訴状の補正の場合等を挙示するが、現行特許法における審決等に対する訴訟(第一七八条)は、昭和二三年法律第一七二号による改正前の旧特許法(大正一〇年法律第九六号)における抗告審判の審決に対する大審院への出訴のように、大審院が特許庁の上級官庁として、かつ、抗告審判の上級審(法律審)として審級的つながりを有していたのとは全く性格を異にし、特許庁の審判事件とは別個、独立の行政訴訟としての性格を有するものであるから審判手数料の補正の時期についても前段説示のとおり解するを相当とし、原告挙示の場合(いずれも上級審として審級的つながりを有している場合)とは同一に論ずることはできない。したがつて、これと異なる見解に立つ原告の右主張も採用の限りでない。

(三)  原告は、一発明分に相当する手数料が納付されているにかかわらず、本件決定が本件審判請求書の全部を却下したのは、違法である旨主張する。しかしながら、特許出願に対する拒絶査定を不服として審判を請求する場合には、一件につき三、〇〇〇円に一発明につき三、〇〇〇円を加えた額の手数料を納付しなければならないことは、特許法第一九五条第一項および特許法、実用新案法、意匠法及び商標法関係手数料令(昭和三五年政令第二〇号)に定めるところにより明らかであり、当該出願にかかる発明が二以上の場合においても、発明ごとに審判を請求することは認められないところであるから、本件審判請求書には、九、〇〇〇円の収入印紙を貼付すべきものであり、六、〇〇〇円の収入印紙が貼付されていたからといつて、本願の二発明のうち、一発明分について適法な審判請求をしたものと解する余地は全くない。したがつて、不足手数料の補正を命じたうえ、本件審判請求書を却下した本件決定を違法とすることはできない。

(四)  原告は、審判長の釈明権不行使の違法を主張するが、前説示のところから明らかなように、本件において原告主張のような釈明をしなければならない理由は全くないものというべきであるから、原告の右主張も採用に値しない。

(むすび)

三叙上のとおりであるから、その主張の点に違法のあることを理由に本件決定の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条および民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

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